親子の時間 庄野潤三小説撰集

庄野潤三小説撰集
『親子の時間』

著 庄野潤三
編 岡崎武志
装幀 和田誠
出版社 夏葉社
発行日 2014年7月25日
価格 ¥2,400+税




駅から続く坂道を登り、麦畑のそばを通ると、丘の上に1軒の家があります。そこには5人の家族が暮らしていて、親子の間には穏やかであたたかな時間が流れていました――。

庄野潤三さんがこれまでに手掛けられた単行本の中から、庄野さんのことを“かけがえのない大切な作家”だと語る岡崎武志さんが、「親子」をテーマにした9つの短篇を選び、まとめられました。

当たり前のように過ぎていくこの時間が、今この一瞬一瞬がどれだけ大切なものかということを、やさしく気付かせてくれるような1冊です。

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先日、お客さまから夏葉社さんの本をご注文いただき、切らしていた本と合わせて夏葉社さんに発注のメールを送らせていただくと、お返事といっしょにこの新刊についてお教えいただきました。
その後改めていただいた新刊案内で、「庄野潤三を読んだことのない読者に、ぜひ手にとっていただきたく思っています。」と書かれていました。恥ずかしながら“庄野潤三を読んだことのない読者”だった私は、発売を楽しみに待つことにしました。(夏葉社の島田さんから「お好きだと思います」とおっしゃっていただけたのが、単純に嬉しかったからかもしれません。)

大切に読みたかったので、届いてから昨日の夜まで、ちょうど1週間かけて、少しずつ読みました。眠れない夜に読めば穏やかな気持ちで眠りにつけ、朝のほんのわずかな時間、ベッドから起きる前にぱらぱらとページをめくれば、その日は朗らかな朝になりました。

これは庄野さん一家をモデルにした小説とのことですが、庄野さんが描かれる子どもたちの描写が、私は特に好きになりました。ともすると見過ごしてしまいそうな日常のささやかなことが、ひとつひとつ丁寧に描かれています。そして、そのひとつひとつの些細なできごとを、庄野さんが愛おしく感じていらっしゃることがこちらまで伝わってきます。

読み終えたあと、あたたかなものにすっぽり包まれたような気分になりました。島田さんが私に「お好きだと思います」とおっしゃってくださったのと同じように、私も当店のお客さまを思い浮かべると、きっと好きになっていただけるような気がしています。

夏葉社さんの本は、階段横の棚にあります。
ぜひお手にとってご覧ください。

そうそう、どうでも良い話ですが、「小糠雨(こぬかあめ)」という言葉を、この本を読んで初めて知りました。店にあった『美しい日本語の辞典(小学館刊)』の、「雨の名前」のところを見てみると、小糠雨について「細かな雨。霧のように細かい雨。細雨。ぬか雨。霧雨。」とありました。
そういえば、今日の大阪は朝から雨が降っていて、このブログを書き終えようとしているまさに今、窓の向こうでは「小糠雨」(!)が降っています。小説の一場面がぱっと目の前に現れたようで、少し感動してしまいました。