花さき山

『花さき山』

作 斉藤隆介
絵 滝平二郎
出版社 岩崎書店
発行年月日 1969年12月30日
価格 ¥1,200+税


あやが、山菜を取りに山の奥へのぼっていくと、
1人の山ンばと出会いました。

そこでは一面にきれいな花が咲いていて、
山ンばは、こう教えてくれました。

“じぶんのことより ひとのことを おもって
なみだを いっぱい ためて しんぼうすると、
その やさしさと、けなげさが、
こうして 花になって、さきだすのだ”と  

* * * * * * *

ぐっと惹きつけられるような、繊細で美しい切り絵が、おはなしをいっそう深く、ゆたかにしています。鮮やかな彩色にも、心が揺さぶられるようです。

おはなしの最初に出てくるあやちゃんは、妹のために我慢をしました。そのときの、切なくもあたたかい気持ちが、花を咲かせていました。その赤い花は、本当にきれいです。

たくさんの人のやさしい心が、花さき山に、色とりどりの花を咲かせていました。また、だれかが命を捨ててやさしいことをしたときには、山が生まれるのだと、山ンばは言いました。

作者の斉藤さんは、あとがきで、戦後の日本人について、“われわれは一人ではなくてみんなの中の一人だ、という自覚を持っていた”と言い、“みんなの中でこそ、みんなとのつながりを考えてこそ、自分が自分だと知った”と言っています。それが、戦後の歴史の、太い心棒のひとつだったと。

けれど今、そんな気持ちも、少しずつ薄れてしまっているんじゃないかな。誰もが、つながりをないがしろにしていたら、人のこころは、もっとバラバラになってしまうのに。斉藤さんがこの本に込められた思いは、今の私たちに必要な、かけがえのないことのように思います。

何度読みかしても、胸がいっぱいになる、大切な1冊です。