ぼくのもものき

『ぼくのもものき』

文・絵 広野多珂子
出版社 福音館書店
発行年月日 2017年3月5日
定価 本体1200円+税


桜の花が咲きはじめた日曜日、桃が大好きな男の子は、お母さんと桃の木を買いました。

ベランダに置いた大きな植木鉢で育てはじめた桃の木は、やがて花を咲かせます。
『くだものの きの そだてかた』の本を見て勉強したり、ガーゼで桃の木の受粉を手伝ったり、実に被せる新聞紙の袋を作ったり……。
男の子とお母さんは、時間をかけ、大切に桃の木を育てます。

けれど、途中でしぼんだり枝から落ちてしまったりして、うまく育ち、青くふくらんだ実はたった2つ。
はたして男の子は、大好きな桃を、お母さんと食べることができるのでしょうか。

* * * * *

植物を育てるということは、命を育てるということ。

育てやすいものもあるけれど、一般に、植物を育てるには、土や肥料、湿度や温度、日当たりといったさまざまなことに気をつけなければなりません。
本書のように、実を楽しみにするならなおさらのこと。

ちゃんと受粉するかな、大きく育つかな。虫に食われないかな。甘くなるかな。
そわそわして、どきどきして。楽しみだけれど、ちょっぴり心配で、いつも気になって。

本書からも、主人公のそんな気持ちが、よーく伝わります。
そんな男の子に寄り添い、時にはアドバイスをして、同じ目線で桃の木に向かうお母さんからは、子どもを思う深い愛情を感じます。

最後の結末は、ちょっぴり切なく、でもうれしくて、胸にじんわり広がるものがあります。

スーパーに並んだ桃もおいしいけれど、自分で育てた桃は、きっと忘れられない味になったでしょうね。