いっすんぼうし

『いっすんぼうし』

文 石井桃子
訳 秋野不矩
出版社 福音館書店
発行日 1965年12月1日
価格 ¥1,100+税


むかし あるところに、おじいさんと おばあさんが すんでいました。としをとるまで、こどもが ありませんでしたので、それを なによりさびしく おもっていました。”(本文より)
そんなおじいさんとおばあさんのもとに、
親指くらいの小さな男の子が産まれました。

「いっすんぼうし」という名を付け、
おじいさんとおばあさんは可愛がって育てましたが、
いくつになってもいっすんぼうしは、小さなままでした。

そこである日のこと、いっすんぼうしは、
都にのぼって、ひと働きしに行くことにしました。

お椀をかさにして、箸を杖にし、
針を刀にして麦わらを鞘にすると、
いっすんぼうしは、ひとり旅立っていきました  

* * * * * * *

日本のおとぎ話を再話した、一寸法師のおはなし。
秋野不矩さんの絵は、のびやかで、みずみずしく、本当にきれいです。

『うらしまたろう』(時田史郎再話、福音館書店刊)もそうですが、
私は彼女の描く海や川が、とても好きです。

『うらしまたろう』では、
北風が吹き荒れるしけた海や、深い深い海のなかを、
この『いっすんぼうし』では、
淡くやわらかな色合いの、穏やかな表情をした川の様子を、
秋野さん独特のなめらかさで、美しく描かれています。

もちろん、繊細なばかりではなく、
都で一寸法師が鬼と戦うシーンなどは、
なんとも大胆な構図で、力強く描かれています。

文章は、石井桃子さん。
ていねいな語り口調の文章は心地良く、
おはなしを遮ることなく、流れるように進んでいきます。

さいごは、めでたしめでたし。
はじめて出版されてから今年で50年。長く愛され続けている1冊です。