おしいれのぼうけん

『おしいれのぼうけん』

作 古田足日、田畑精一
出版社 童心社
発行日 1974年11月1日


さとしとあきらが通うさくら保育園には、怖いものがふたつあります。ひとつは、先生の言うことを聞かない子が入れられる「おしいれ」で、もうひとつは、先生たちがやる人形劇に出てくる「ねずみばあさん」です。ある日のこと、昼寝の時間がきたというのに、さとしとあきらは寝ている子どもたちの上を駆け回っていました。怒った先生はおしいれの戸を開けると、あきらを下の段に、さとしを上の段に入れて、戸を閉めてしまいました。なかなか“ごめんなさい”を言わないふたり。あせぐっしょりになりながらも、穴から外を覗いたり戸を蹴ったりしながら先生に抵抗してました。でも、だんだんと怖くなってきて・・・。諦めかけたそのとき、おしいれのぼうけんがはじまりました――。

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ほとんどのページが鉛筆で描かれた白黒の絵で、子どもたちの熱気や手に汗握るような気持ちが、じわじわと絵本から伝わってきます。冒険がはじまるとストーリーには更に臨場感があふれ、さとしとあきらが手を繋ぎ、勇気をもって進んでいく様子には彼らの深まる友情を感じます。
そんなふたりが立ち向かったのは、先生が操る人形劇のねずみばあさんよりももっと大きくて、たくさんのねずみたちを率いる恐ろしいねずみばあさん。そのねずみばあさんを倒したのは、アニメに出てくるようなかっこいいヒーローではなくて、この小さなふたりの男の子です。
この本が長く愛され続けている理由のひとつは、きっとここにもあるような気がします。

「てを つなごう」。
あきらがさとしに、さとしがあきらに言った、この本の合言葉みたいなこの言葉が、子どもたちの心のどこかにそっと残っていてくれたら・・・きっとまたどこかで誰かにそう言って、手を差し伸べられる日がくるかもしれませんね。