口で歩く

『口で歩く』

作 丘修三
絵 立花尚之介
出版社 小峰書房
発行日 2000年10月18日
価格 ¥1,200+税



生まれて20数年ものあいだ、タチバナさんは歩いたことがありません。ずっと寝たきりで、出掛けるときは、足に車輪がついたベッドをお母さんに出してもらいます。
いいお天気の、ある日のこと。タチバナさんは散歩に出かけることにしました。ところがお母さんは、道路に出したベッドに立花さんを乗せると、ほったらかして家の中にひっこんでしまいました。でも、実はそれがいつもの光景。タチバナさんの散歩は、少し変わっています。通りすがりの人に声を掛けると行く先まで押してほしいと頼み、そこまで来たら、また別の人に声を掛けて押してもらい、自分が目指す目的地へと少しずつ進んで行くのです――。


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タチバナさんの散歩は、“口で歩く”散歩です。けれど、そうは言っても気軽に車を押してくれる人は決して多くはありません。中には、「あんたの体を治してくれる神様がいるのさ」と怪しい話を持ちかけられたり、「人の世話になってまで散歩するってのがわからねぇ。」なんて言うおじさんがいたり・・・。
でも、タチバナさんは言います。「人の手を借りなきゃ、生きていけない人間もいるってことを」認めてほしいのだと。そして、あるおばあさんはタチバナさんに言いました。「わたしがあなたをささえているようにみえて、実はあなたもわたしをささえてくれているのですよ」と。
この本の冒頭にひとつの詩が掲載されています。その中に、こう書かれていました。“人は / ひとりで生きているのではありません。/(中略)ひとりひとりが なにかの役割をになって / 人のささえあう輪の中に / 生きているのです。”
子どもたちに伝えたいことが、たくさん詰まった1冊です。