うさぎのくれたバレエシューズ

『うさぎのくれたバレエシューズ』

文 安房直子(あわなおこ)
絵 南塚直子(みなみづかなおこ)
出版社 小峰書店
発行年月日 1989年10月2日
価格 ¥1,300+税


バレエ教室に通いはじめて5年が経ったけれど、
女の子は、なかなかおどりが上手になりません。

そんな女の子のもとに、
ある朝、バレエシューズが届きました。

それは、山の靴屋さんからで、
“おどりがじょうずになりたいおじょうさんへ”と
書いてありました。

女の子は、
早速そのバレエシューズを履いてみました。

すると、どうしたことでしょう。
足がひとりでに跳ね上がって・・・。

* * * * * * *

靴屋さんは、山の上の、桜の木の中にありました。その景色の、きれいなことといったら・・・!ページに広がる、大きな桜の木。ひらひらとこぼれ落ちる、桜の花びら。ページを開けば、春のあたたかな風やにおいが、ふわっと広がるようです。

この絵本は、「なつかしい!」と言って手に取られることが多い絵本です。そして、そのあとに続くのは「大好きだった」ということ。例えば、お母さんに何度も読んでもらったとか、幼稚園の先生が読んでくれたとか、病院の待合室で読んだとか・・・。鮮明に覚えていらっしゃる方が、すごく多いな、と感じる1冊です。

その訳は、いろいろあると思います。たとえば、少し大きめの判型だとか、きれいな桜の絵だとか、たくさんのうさぎがいっせいに躍る場面だとか。
でも、子どもたちにとって何より心にひびくのは、この、等身大のストーリーではないでしょうか。主人公の名前は語られず、一貫して“おんなのこ”として表示されているところもいいですね。

子どもたちなら、誰でもきっとひとつは抱えている“苦手なこと”を、やさしく包んで、受け止めてくれるような・・・。そして、“いつかはきっと”という思いを、抱かせてくれるような・・・。そんな風に、子どもの心に寄り添った、あたたかな1冊です。