よあけ

『よあけ』

作・画 ユリー・シュルヴィッツ
訳 瀬田貞二
出版社 福音館書店
発行年月日 1977年6月25日
価格 ¥1,200+税
※原書『DOWN』1974年発行(アメリカ)


静まりかえった、夜のみずうみ。
そのほとりの木の下で、
おじいさんと孫が寝ていました。

次第に、もやがこもり、
あたりがだんだん明るくなると、
おじいさんは孫を起こしました。

そしてふたりはボートに乗って、
湖に漕ぎ出しました  

* * * * * * *

タイトルの通り、“よあけ”を描いた絵本です。

湖の上でおじいさんと孫が見たのは、目を見張るほどの、美しい夜明けの風景です。夜の、深い深い藍色の、その静けさから一転して広がる景色は、あたたかくおだやかで、心がすっかり洗われるようです。

それは1日のはじまりであり、同時に、別の“なにか”のはじまりをも感じさせられるような、特別なもののようにも感じます。

絵の中で、おじいさんは終始孫に微笑みかけているように見えますが、孫は少しうつむき加減で、黙々と作業をこなしています。きっとそれにも、なにか意味があって、だからこそおじいさんは、孫をこの場所に連れてきたのかも・・・なんて思ってみたり。

表紙の孫は、片手をあげて、おじいさんに何か話しかけているように見えます。前日の、湖にやってきたときの一場面かもしれませんが、私は夜明けのあとのような気がして・・・。真相は分かりませんが、そんな風に思いをめぐらしてみるのも、またおもしろいです。

絵を見るだけで、そのストーリーはもちろん、風の音や、そのひんやりとした空気までもが感じ取れるような作品です。けれど私は、ここに添えられた瀬田貞二さんの、短くシンプルな文章もとても好きです。何度も声に出して読みかえしたくなるような、美しい文章です。

本棚にあるだけで、心がすっと澄むような、大切な1冊です。